「天水工房」彫刻・岩岡 道雄さん


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天水工房からの安曇野の風景とハンドベルの型(試作)

天水工房は安曇野の入り口、松本市梓川にあります。
北アルプスが青空に映える素晴らしい環境。この景色を含めた全てが天水工房を、岩岡さんの作品を形づくっているのでしょう。
彫刻家である岩岡さんは私の大先輩。大学を出たものの鳴かず飛ばずどころか地を這う私(半分は好きで這っていますが)からすると、ご苦労が多い中でも作家活動を続けられる岩岡さんは、尊敬する先輩です。
偶然にも職場(岩岡さんは講師、私はアルバイトでしたが)でご一緒したことから、お話する機会を得ることができました。

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「石舞台=TUDOI」梓川村

天に向かってそびえ立つ、ミカゲの大石柱。
この作品は、梓川村を走る農面道路沿いの公園にあります。彫刻家や、石を扱うアーティストには造園や公園のデザインや設計をする人が多く、こちらの作品の他にも岩岡さんはいくつか、庭園を造っておられます。

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「夢の番人(H2000)」兵庫県・新宮町

山林の木立を背景にしたこの作品は、現世とあちら側の世界を隔てるように立ちはだかっています。
『おまえはここを通れるか。』そんな声が頭の上から聞こえてきそうです。くぐり抜けようとしてもし、現世に戻ってこられなかったら…ちょっと躊躇する自分を想像します。
魔除けとして瓦に描かれたような、日本の伝統的な「鬼」を連想させるこの作品に、アニミズムを感じるのは私だけでしょうか。
人間が大地から感じ取っていたであろうもの、現在は人が捨ててしまっている大地への信仰。
岩岡さんは大地から受け取った石に、それらの人が忘れ去ろうとしているものを、日々刻み続け、遺しているように思います。

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「地蔵菩薩 御影石(H700)」個人蔵

アーティストである岩岡さんの作品は、モダンでユニークな現代アートです。
ここからは、職人としての岩岡さんの作品をご紹介します。

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「花数珠地蔵尊」新小松石(H500)個人蔵

首と手にかけられた数珠にお花をあしらった、可愛らしいお地蔵様。

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「聖観世音菩薩」新小松石(H800)個人蔵

どっしりとした太い脚を持つ、安定感のある聖観世音菩薩様。私たちに向かってその大きな御手を広げ、差し伸べています。

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「聖観世音菩薩」本小松石(H600)個人蔵

こちらの聖観世音菩薩様は、一転してなよやかで女性的な美しさ。

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「聖観世音菩薩」新小松石 (H1500・2300)個人蔵

台座を含めると高さ2メートルを超える聖観世音菩薩様です。

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「聖観世音菩薩(アップ)」新小松石 (H1500・2300)個人蔵

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「道祖神」御影石

岩岡さんの造る「顔」にはどことなく、子供の面影があります。それは無垢で、見る人の頬を緩ませます。
私は仕事柄、輸入された市販の石造品をいろいろ見ましたが、比較するまでもなく、岩岡さんの掘った石仏たちとそれら市販品には歴然とした違いがあります。
岩岡さんの石仏は仕上げの石肌の柔らかさはもちろん、お顔は静謐で穏やか。そしてそのお顔は、私たちの暮らしの傍に常に寄り添ってくれる親しみやすい表情なのです。

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川原石を使った鳥型水鉢

そして、岩岡さんは水鉢も掘ります。基本的に職人は注文次第で何でも掘りますが、その「何でも掘れる」と言うところが熟練の技なのでしょう。
気軽に置けて、庭に馴染む水鉢を…と作られたもので、川原石の形を活かして鳥に見立てた、石の自然な姿が美しい水鉢です。

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大変僭越ながら、岩岡さんのお言葉に甘えて私の庭で使い勝手を試させていただいたところ、貧弱な私でも持てる重さでした。
庭が無くても玄関ポーチに置いたり、またベランダのバードバスにも良さそうです。
石は陶器やガラスと違ってめったに割れることが無いため、持てさえすれば扱いが楽。手掘りの石造品は1点ものなので高価ですが、屋外での用途にとても適しています。

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写真ではちょっとわかりにくいのですが、水鉢の底はフラットに整えてあるのでテーブルの上に置いてもガタつくことはなく、安定します。
岩岡さんに制作過程を伺うと、まず最初にイメージに合った石を探し出すところから作品創りは始まるとのこと。
これは水鉢に限らずすべての作品に通じ、この水鉢の場合は石探しから彫り上げるまでに数ヶ月をかけるとのことでした。…もちろんこのあと、展示会に間に合うようにきれいに洗ってお返しいたしました。

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鳥形水鉢(川原石)

こちらは、アーティストとしての岩岡さんらしいデザインで掘られた鳥形水鉢で、同様に川原石を使っています。
鳥の形がどこか懐かしさを感じる、レトロ・モダンな現代の水鉢で、屋内で飾っても良さそうです。石の重厚感に負けない、広いけれどすっきりと片付いたモダンなお部屋に似合いそう。
水ではなく土を入れて多肉やサボテンをあしらっても素敵…石はやっぱり、良いですね。


画像提供:天水工房 代表・岩岡道雄 長野県松本市梓川倭902 TEL:0263(78)2351

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